コンビニエンスストアの駐車場は、あくまで店舗を利用する顧客のために用意された一時的な駐車スペースです。
しかし、中には「少しの間だけなら大丈夫だろう」「夜間ならバレないはず」といった安易な気持ちで、長時間にわたって車を放置したり、無断で停めっぱなしにしたりするケースが見受けられます。
こうした行為は、店舗の営業を妨げるだけでなく、法的なトラブルや多額の賠償請求に発展するリスクを孕んでいます。
本記事では、コンビニの駐車場に車を放置した場合にどのような事態が起こるのか、警察の対応やレッカー移動の可否、そして請求される可能性のある損害賠償の実態について、専門的な視点から詳しく解説します。
コンビニ駐車場における「無断駐車」の法的定義
コンビニエンスストアの駐車場は、道路交通法が適用される「公道」ではなく、店舗や地主が所有・管理する「私有地」にあたります。
この違いが、無断駐車をした際の法的扱いを大きく左右します。
まず、私有地における無断駐車は、刑法上の「住居侵入罪」や「建造物侵入罪」に抵触する可能性があります。
正当な理由なく他人の敷地に立ち入る行為は法律で禁じられており、駐車場の利用目的(買い物)を逸脱して長時間放置することは、管理者の意思に反する占有とみなされるためです。
また、民事上では「不法行為」に該当します。
民法第709条では、故意または過失によって他人の権利や利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定められています。
コンビニ側は、無断駐車によって本来の顧客が駐車できなくなり、売上が減少した分の損害(逸失利益)を請求する権利を有しています。
放置・停めっぱなしにした場合に起こる現実的なリスク
車を放置し続けた場合、店舗側は段階を踏んで対応をおこないます。
単なる注意で済む段階から、法的な手続きへと移行するまでのプロセスを理解しておく必要があります。
警告文の貼付と記録
最初におこなわれるのは、ワイパーに警告文を挟んだり、車体に直接貼り付けたりする措置です。
これと同時に、店舗側は証拠保全のために、車両のナンバープレート、車種、色、停車位置、そして放置の開始日時を写真や防犯カメラ映像で記録します。
警告文を無視して放置を続けると、「悪質性が高い」と判断され、その後の法的手段において所有者側に不利な証拠となります。
所有者の特定調査
放置車両が数日に及ぶ場合、管理者は「登録事項等証明書」の交付請求をおこない、車両の所有者を特定します。
普通自動車であれば、陸運局にてナンバープレートの情報を基に所有者の氏名や住所を照会することが可能です。
軽自動車の場合、以前は所有者情報の取得が困難でしたが、現在は弁護士会照会(23条照会)などの手続きを通じて、所有者の連絡先を突き止めることが可能になっています。
匿名性が守られると考えて放置し続けるのは大きな間違いです。
損害賠償請求の通知
所有者が判明すると、内容証明郵便などで損害賠償の請求書が送付されます。
この際、単なる駐車料金相当額だけでなく、調査にかかった実費(弁護士費用や調査費用)も上乗せされるケースが一般的です。
警察は介入してくれるのか?「民事不介入」の壁
無断駐車が発生した際、店舗側が警察に通報することはよくあります。
しかし、警察がすぐにレッカー移動をしたり、違反切符を切ったりすることはありません。
これには「民事不介入の原則」が大きく関わっています。
| 項目 | 公道(道路) | コンビニ駐車場(私有地) |
|---|---|---|
| 適用法律 | 道路交通法 | 民法(私有地管理権) |
| 警察の権限 | 駐車違反の取締り・移動命令 | 原則として介入不可(民事不介入) |
| レッカー移動 | 公的な執行として可能 | 管理者による強制執行は困難 |
| 罰金・反則金 | 法律に基づき発生 | 法律上の「罰金」は発生しない |
警察ができることは、主に「所有者への連絡」と「口頭注意」に限られます。
警察官は現場でナンバープレートから所有者を割り出し、電話をかけて移動を促すことはしてくれますが、それ以上の強制力を行使することはできません。
ただし、盗難車であった場合や、車内に不審物・危険物がある疑いがある場合は、刑事事件として捜査が開始されることがあります。
また、あまりにも悪質な放置は「業務妨害罪」として立件される可能性もゼロではありません。
コンビニ側が強制的におこなう「レッカー移動」や「タイヤロック」
店舗側も、放置車両をいつまでも置いておくわけにはいきません。
しかし、日本の法律には「自力救済の禁止」という原則があります。
自力救済の禁止とは
「自力救済」とは、権利を侵害された者が、裁判所などの公的機関の手続きを経ずに、自らの力で実力行使をして権利を回復することを指します。
例えば、無断駐車車両を勝手にレッカー移動したり、タイヤロックをかけて動けなくしたり、鍵を壊して移動させたりする行為は、原則として認められていません。
もし管理者が勝手に車を移動させ、その過程で車体に傷がついた場合、逆に所有者から器物損壊や損害賠償を逆提訴されるリスクがあります。
そのため、多くのコンビニ本部やオーナーは、リスクを避けるために慎重な対応を取ります。
それでも強制排除されるケース
最近では、長期放置車両に対して「動産撤去」の裁判を起こし、裁判所の強制執行手続きを経て車両を処分するケースが増えています。
この手続きにかかる費用(数十万円単位)は、最終的に車両所有者に請求されます。
また、一部の管理会社では、警告期間を十分に設けた上で「以後の損害については一切責任を負わない」という誓約を法的に構築し、強硬手段に出る場合もあります。
いずれにせよ、所有者にとって大きな不利益になることは避けられません。
高額な「違約金・罰金」の看板に法的効力はあるのか
コンビニの駐車場でよく見かける「無断駐車は金10万円申し受けます」といった看板。
果たして、この金額をそのまま支払う義務があるのでしょうか。
法律上の「罰金」ではない
まず、看板に書かれている「罰金」は法律用語としての罰金(国家が科す刑罰)ではありません。
あくまで私人間における「違約金」または「損害賠償額の予定」としての意味を持ちます。
認められる金額の妥当性
過去の裁判例では、看板に書かれた法外な金額がそのまま認められることは稀です。
基本的には、「近隣のコインパーキングの相場料金」に基づいた損害額が基準となります。
しかし、単なる駐車料金だけでなく、以下の項目が加算されることで、結果的に高額な請求となることがあります。
- 看板に記載された内容を承諾して駐車したとみなされる場合の違約金(公序良俗に反しない範囲)
- 所有者特定のために要した調査費用(弁護士費用、住民票取得費用等)
- 警告や督促にかかった事務手数料
- 長期間の放置による営業損失
例えば、1時間1万円といった極端な請求は認められにくいですが、「1日あたり数千円〜1万円程度」の損害金が数週間にわたって加算されれば、数十万円の請求に至ることは十分にあり得ます。
車を放置し続けた場合の最終的な結末
車を放置し続け、店舗側からの連絡も無視し続けた場合、最悪のシナリオとして以下のような結末が待っています。
- 訴訟提起と差押え
店舗側が弁護士を介して民事訴訟を起こします。
裁判所に通らず欠席判決となれば、管理者の主張が全面的に認められます。
その後、給与の差し押さえや預貯金の凍結など、強制執行による債権回収がおこなわれます。
- 車両の競売・廃棄処分
裁判所の手続きを経て、車両が競売にかけられたり、価値がないと判断された場合は廃棄処分されたりします。
売却代金は滞納している損害金や諸費用に充てられますが、不足分は引き続き請求されます。
- 社会的信用の失墜
無断駐車の様子がSNSで拡散されたり、近隣住民の間で噂になったりすることで、日常生活に支障をきたす恐れがあります。
また、弁護士からの督促や裁判所からの通知が自宅に届くことで、家族に知られるリスクも避けられません。
トラブルを未然に防ぐために
もし、故障や急病などでやむを得ずコンビニの駐車場に車を置いていかなければならない状況になった場合は、以下の対応を即座におこなってください。
- 店長や店員に事情を話し、許可を得る
「車の故障でレッカーを呼んでいる」「体調が悪く、家族の迎えを待っている」など、具体的な理由といつまでに移動させるかを伝えます。
- 連絡先を提示する
自身の氏名と電話番号を伝え、何かあればすぐに連絡が取れる状態にします。
可能であれば、ダッシュボードの外から見える位置に事情を記したメモを置いておくと、巡回中の警察や管理者への理解を得やすくなります。
- 早急に移動手段を手配する
許可はあくまで一時的な善意によるものです。
数時間以内、遅くとも翌朝までにはレッカー車を手配するなどして車両を移動させてください。
まとめ
コンビニの駐車場に車を放置・停めっぱなしにする行為は、決して「バレなければいい」というレベルの問題ではありません。
私有地管理権の侵害として、法的な責任を追及される重大なリスクを伴います。
「民事不介入」だから警察は動かないという思い込みや、「自力救済禁止」だから車は勝手に動かされないという安易な考えは、現代の法的実務の前では通用しません。
所有者の特定は容易におこなわれ、蓄積された損害賠償金は最終的に強制執行という形で回収されることになります。
コンビニ駐車場は公共の場所ではなく、店舗がコストをかけて維持・管理している営業施設です。
ルールを守り、正しく利用することが、自分自身を予期せぬトラブルや経済的損失から守る唯一の方法です。
もし万が一、緊急の事情で駐車が必要になった際は、必ず店舗への相談と早急な対応を徹底しましょう。






